From Non-PhD Postdoc to Physician-Scientist: My Journey in the US (後編)

From Non-PhD Postdoc to Physician-Scientist: My Journey in the US (後編)

Itsuki Osawa, MD

(2024年度 Mitsui USA-JMSA Scholarship Awardee)

ABSTRACT

I am Itsuki Osawa, MD, a Postdoctoral Research Scientist under the mentorship of Dr. Yuichi Shimada at the Division of Cardiology, Columbia University Irving Medical Center, since October 2023. As a recipient of the Mitsui USA-JMSA Scholarship, I am honored to share my essay, entitled “From Non-PhD Postdoc to Physician-Scientist: My Journey in the US,” with the JMSA community.

I am a Non-PhD, MD-trained postdoctoral research scientist striving to become a principal investigator in the US. This contribution is presented in two parts. Following on from the first part, I would like to share valuable experiences I gained after moving to the US, and also about my future career prospects.

はじめに

初めまして、大沢樹輝と申します。2023年10月よりコロンビア大学循環器内科にてPostdoctoral Research Scientist(メンター: 島田悠一先生)として働かせていただいております。この度僭越ながら、Mitsui USA-JMSA奨学生として、PhDを保有していないMD(医師)の資格によるPostdoctoral Research Scientistが、研究者として独立を目指す過程において、自身の経験談を共有させていただく機会を頂戴しました。先日寄稿差し上げた前編に続き、渡米後に得られた貴重な経験や、自分を戒める意味も込めて今後のキャリアの展望について述べさせていただこうと思います。

簡単な自己紹介と留学に至るまで(詳しくは前編をご覧ください)

私は2019年に東京大学医学部医学科を卒業し、その後は初期研修を経て、東京大学医学部附属病院で救急・集中治療の専攻研修を行い、昨年救急専門医を取得しました。その後、トランスレーショナル研究の本場で研鑽を積みたい、勝負したいという気持ちが強くなり、2023年10月に渡米し、島田悠一先生(Columbia Hypertrophic Cardiomyopathy CenterのResearch Director兼Columbia University Irving Medical Center [CUIMC]のAssociate Professor of Medicine)のご指導の元、MDを元にしたPostdoctoral Research Scientistとしての研究生活が始まりました。

研究室を通じて得られる経験について

前編でも述べた通り、島田先生の研究室での研究は、肥大型心筋症の病態生理を解明することを最大の目標としており、肥大型心筋症の患者さんからいただいたあらゆる検体(所謂、オミクスデータ)を解析することで、肥大型心筋症の病因・予後予測・治療法の同定を目指しています。ただ古典的な疫学研究で扱うデータとはやや趣向が異なり、オミクスデータは非常にデータサイズが大きく、またその種類(例: ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム)によって特異的な解析方法が存在するなど、これらのデータから知見を導くためには、BioinformaticsやComputational biologyの知識やスキルが大切となります。私はこれまで後ろ向きの観察疫学研究に複数取り組んできましたが、それらも体系的に学んだことがないだけでなく、BioinformaticsやComputational biologyの手法については完全な初心者です。研究室に蓄積されたノウハウから学び、実際に解析に移せる部分も多くありますが、専門的な解析手法については他の部門や分野の研究室や研究者に協力を仰ぐという経験を多数しています。これらは島田先生が研究室の主任研究者(PI: principal investigator)として築かれたネットワークが大きい一方で、大学内のレクチャーやネットワークの機会を有効に活かすことで、自分が持ち得ない専門性について指導を仰いだり、共同研究の形を築いたりすることが可能です。実際に他の部門や分野の研究室や研究者にエフォートを割いてもらうためには、その対価を支払う必要がある場合もありますが、頻回に開催されるレクチャーや講演会を含め、研究者間の交流が盛んに計画されている制度は特に素敵だと思います。ネットワーキングにはそれ相応の英語力が必要となることもあり、効果的なコミュニケーション・ネットワーキング能力の向上のため、個人的に努力を継続していこうと考えております。

大学内のレクチャー機会について

大学内(本稿では特にCUIMCを指します)では多くのレクチャーが開催されることは先に述べた通りですが、いくつか例を挙げさせていただきます。具体的には、病院内で開催される著名な研究者が呼ばれて講演が行われるGrand Roundsだけでなく、Columbia University Libraryが開催しているような無料の講座(例: キャリアディベロップメントから各種ソフトウェアの使い方、そしてProgrammingの講座)、大学病院の研究部門が開催するグラントに関するワークショップ(NIHに限るとpredoctoralのFグラント、postdoctoralのKグラント、そして独立に必要なRグラントといった各種グラントに関する講義やハンズオン、添削機会が存在)、また外部の関連サービス(例: https://beyondprof.com/)と連携した研究者として必要なソフトスキルを学ぶための講座、最後に有料となりますがColumbia University Mailman School of Public Health(公衆衛生大学院)が開催するSkills for Health and Research Professionals (SHARP) Trainingプログラムが存在します。SHARP Trainingプログラムは、学外からでも受講可能です。幅広い分野におけるハンズオンコースがあるのでご興味ある方は是非ご確認ください(https://www.publichealth.columbia.edu/academics/non-degree-special-programs/professional-non-degree-programs/skills-health-research-professionals-sharp-training)。他にも米国国民もしくは米国永住者(Green card保有者)であれば更にトレーニングの門戸は開かれます。これらの情報は特にPostdoctoral Research Scientistに対してCUIMCから毎週メールが届くので豊富なリソースに対する最新の情報を得ることが可能であり、サポート体制の手厚さを実感しています。他大学や研究期間においても同様のサポートは存在するのではないかと予想しています。

大学外のレクチャー機会について

米国に滞在することで、日本では受講の機会が限られている多くのレクチャーを現地もしくは時差なくオンラインで受講することが可能となります。私は島田先生のご配慮とご厚意があり、いくつかの現地レクチャーに参加させていただきました。

1つ目は2023年12月に開催されたUC DavisによるオンラインでのAdvanced Topics in Single Cell RNA-Seq: Spatial Transcriptomicsというワークショップです。最近の流行りでもあるSpatial Transcriptomicsの概念から手法を学ぶという少人数ワークショップでした。こちらもリアルタイムで参加することでOffice hourで専門家に直接質問も可能です。US DavisのBioinformatics Coreでは他にも多くのBioinformaticsやComputational biologyの分野の講座を開講しています(https://registration.genomecenter.ucdavis.edu/events/organizer/bioinformatics_core/)。ただし、私が参加した講座を含めてBioinformatics Coreの専用のHPならびにGitHubに内容の一部が無料公開されていることもありますので、そちらを先にご覧いただくのが良いかもしれません(例: https://ucdavis-bioinformatics-training.github.io/2022-December-Spatial-Transcriptomics/)。

2つ目は2024年3月にUniversity of Colorado Boulderで開催された2024 International Statistical Genetics Workshop(https://www.colorado.edu/ibg/workshop)です。毎年同時期に開催されているStatistical Geneticsに関連したハンズオンワークショップです。BioinformaticsやComputational biologyのややFundamentalな部分に焦点が当たったセミナーですが、ホテルに泊まり込みで5日間ほど開催されるものであり、非常に勉強になりました。こちらはセミナー後にほとんどの講座がYouTube上で公開されることもあり、ご興味ある方は是非ご覧ください(https://www.youtube.com/@isg-workshop)。

3つ目は2024年7月にUCLAで開催されたComputational Genomics Summer Institute (CGSI) 2024(http://computationalgenomics.bioinformatics.ucla.edu/)です。こちらはUCLAが中心となって米国を中心とした各国のFacultyを呼び開催される最大1ヶ月程度のリトリート形式の勉強会です。毎年同時期に開催され、短期参加や長期参加など参加時期が選べるのですが私は長期参加をさせていただきました。長期参加の場合はUCLAのUndergraduateのFrat houseに泊まりこむという米国ドラマさながらの体験をすることになり、その場で同じ志を持った世界中の仲間と親交を深められたのは良い経験でした。また今年から開始されたというポストリトリートの勉強会であるWarren Alpert Network Fellowshipに幸運にも選ばれることになり、自身の希望するメンターの先生について研究をする機会を得ました。Fellowship期間は終了してしまったので、今後はメンターの先生が私にエフォートを割いていただけるか次第ですが、せっかく頂戴した機会を大切に、研究を形にできたらと考えています。CGSI自体もほとんどの講座がYouTube上で公開されることもあり、ご興味ある方は是非ご覧ください(https://www.youtube.com/@computationalgenomicssumme6137)。

他にもHuman Genetics分野における総本山のような学会であるAmerican Society of Human Genetics (ASHG)のAnnual Meeting(https://www.ashg.org/meetings/)にも参加する機会を頂きました。抄録提出期間までに研究がまとまらずASHGへは聴講のみに留まりましたが、他の日本人の先生方にもお目にかかることができ、大変貴重な交流の機会となりました。今後はASHGでの発表ができるように研究に精進していきたいと考えています。

また私は今まで参加していませんが、代表的で有名なBioinformaticsやComputational biology分野のレクチャー機会としてカナダでのBioinformatics.ca(https://bioinformatics.ca/)もありますが、こちらも現地参加がかなわない場合は、公式のYouTube(https://www.youtube.com/channel/UCKbkfKk65PZyRCzUwXOJung)を見つつ、Student page(https://bioinformaticsdotca.github.io/)を参考に自学することをオフィシャルに事務局に推奨されました。

私が参加した大学内外のレクチャー機会を雑多な形で紹介させていただきましたが、他にも幾多の機会が存在するようです。このような勉強の機会をお許しいただけたことはメンターである島田先生のご厚意があってのこと(参加費用も全てご負担いただき本当に感謝いたします)ですが、渡米したことで非常に視野が広がり、多数の教育機会を得られたことは本当に有り難いと考えています。

今後のキャリアの展望とおわりに

前編にも述べさせていただいた通り、日本人医師の米国研究留学というと日本での博士号取得後のPostdoctoral Research Fellowとしての留学が一般的とされますが、私の場合はあくまでMDの学位のみでPostdoctoral Research Scientistとして、研究のアウトプットの機会だけでなく、学内外含めて広くインプットやネットワーキングの機会を得ることができました。今後私は、NIHからの研究費を取得した独立した PIになるという最終目標に向けて、引き続きOn-the-job-trainingを中心として研究に邁進することになりそうです。私は日本の救急専門医を保有したMDですが、米国での医師免許がありませんので、米国で独立したPIを目指すためにはユニークでインパクトのある研究内容とFundingの取得実績を中心に勝負をしなければなりません。これまで1年半弱の留学で得られた漠然とした将来の青写真を元に、自戒も込めてこれからも挑戦を続けていきたいと思います。

米国滞在と切っても切り離せないのがVISA問題となりますが、既に一定の研究歴があり、日本にいらっしゃる先生であれば、移民弁護士と相談することで日本にいながらにしてImmigrant Visa Processingを利用したGreen card申請ができるようです。こちらは政治的情勢の影響を多分に受けますので、常に最新の情報をご確認いただきたいですが、米国永住権を得ることで挑戦できるプログラムやFundingの可能性が遥かに広がることは言うまでもありません。この点も含めて留学前からの長期的視点での準備も大切と言えると思います。

最後になりますが、前編と後編を通した本稿において、僭越ながら私がこれまでNon-PhD, MD-trained Postdoctoral Research Scientistとしての留学を通じて得られた経験を共有させていただきました。自身でも数年後のキャリアは全く想像できませんが、これからの挑戦もポジティブに捉え、楽しく研究活動を継続していこうと考えております。このような寄稿の機会を下さったJMSAの関係者の皆様、また私を支援してくださったMitsui USA-JMSA 奨学金にご関係の皆様にはこの場をお借りしてお礼申し上げます。本稿につきましてご意見・ご質問等ございましたらお気軽に私(io2240 [at] cumc.columbia.edu)までご連絡賜れますと幸いです。