コロナウイルスをめぐる質問2

Written by: Dr. Yuzuru Anzai

最近の話題からまとめてみました。できるだけ客観的にまとめましたが、JMSA をはじめいかなる団体の意見を代表するものではありません。

コロナウイルスの検査について

これまで、多く行われてきた検査はPCR により、ウイルスの有無を検査するものです。これは、新型コロナウイルスの塩基配列を増幅するもので、(コロナウイルスはRNA ウイルスなので、DNA に変換する過程を通してからですが)、非常に鋭敏です。しかしながら、検体にウイルスがのっていなければ、もちろん陽性には出ません。鼻から綿棒を入れて、その奥の液体を採ってくるのですが、ウイルスが、喉のもっと奥の方に存在していても、綿棒が届かなければ、採取できず、陰性となります。このため、PCRのsensitivity(感度)は、60-70%程度と言われています。逆に言えば30-40%は見逃されることになります。更に、ウイルスがそこに存在しているかどうかの検査ですから、かかって、治った後では出ないことになります。

これに対して、4月20日から、ニューヨーク州で行われ始めた、抗体検査ですが、これはウイルスに反応して体内で作られるタンパク質を検出するものです。急性期にできるIgMと、それよりも遅れて出現し、長く残るIgGがあります。多くの抗体は、抗原(この場合はウイルス)に対して、中和作用があり、体を守る働きをします。ですから、抗体があるという事は、感染した事があるということを示すと共に、新型コロナウイルスに対して免疫がある可能性を示唆します。

感染した事がある人を特定できるということは、感染の広がりの把握を容易にします。ですから、今回のウイルスの致死率の計算も、もっと正確に行うことができます。免疫については、今回のウイルスについては、確証はないのですが、動物実験、同種のウイルスに対する抗体のデータから、何らかの免疫を獲得できる可能性が極めて高いと考えられています。韓国、日本で、感染確認後、回復して一度ウイルスが陰性になった人が再感染したという報告がありましたが、専門家は、PCRの偽陰性であったものと考えているようです。

クオモ知事は、最初の抗体検査の結果として、14%近くの人が、陽性であったと発表しました(4月23日)。この数字は、検査が進むにつれて、変わっていくものですが、これまでに推測されていたよりも高い数字で、ウイルスが、予想以上に蔓延していた事を表すものです。一番感染者が多かったニューヨーク市でさえ、現在診断が確定した人は2%弱です。もちろん、軽症者は検査をしていないので、おそらくは感染した人はその数倍ですが、14%はそれをも上回る数字と言えます。これまで、ワシントン大学のモデルでは、今回の第一波が収束した時に、アメリカ国民のうちで、感染者は3%程度と推定していました。97%は感染したことがないという事は、第2、第3の波が来ることはほぼ間違いないと考えられるのですが、もし感染した人がもっと多ければ、次の波は、今回程ひどいものにはならないかもしれません。

ただ、検査の解釈に注意が必要な部分もあります。ちょっと面倒くさい話をしますが、検査の正確性を評価するSensitivity (感度)Specificity (特異性)というのがあります。前者は病気を持っている人を検査した場合、何%が陽性に出るかです。後者は、病気を持っていない人を正しく判定(陰性)できる割合です。先程PCR のSensitivity が 60-70%と書きましたが、今回の抗体検査は、玉石混淆で、かなりあてにならないものもあるようです。しかし、ニューヨーク州の検査は、非常に正確だという事で、Specificity が93-100%とニューヨーク州のウェブサイトに書いてありました。https://coronavirus.health.ny.gov/system/files/documents/2020/04/updated-13102-nysdoh-wadsworth-centers-assay-for-sars-cov-2-igg_1.pdf

ここから、もっと面倒くさい話をしますが、仮に、Sensitivity を90%, Specificity を95% とします。どちらもかなり高い数字で、検査としては、悪くない検査ですね。さてこれをコロナウイルスに当てはめた場合、例えば、ウイリス感染者が全人口の10%を占めるとします。100人中、10人が感染がある。感染者10人のうち、検査で、9人は陽性となり、ひとりは偽陰性です。これに対して、非感染者90人のうち、95%は陰性ですが、5%は偽陽性となります。95x5%は、5人ぐらいですね。合計すると14人、クオモ知事の数字ぴったりなのですが、抗体検査陽性に出た14人の内、9人は本当に抗体を持っているのに対し、5人(36%)は偽陽性となります。偽陽性は5%と言ったじゃないかと文句をつけてはいけません。検査のパフォーマンスは、検査の正確さのみではなく、病気の広がりによるという一例です。こうしてみると、抗体があると言われた人も100%安心はできない。抗体がある人から仕事に戻そうという動きがありますが、もっとデータが揃うまで、慎重にすべきだという理由の一つです。

ペットからうつるか? (4月30日更新)

4月6日に、ブロンクスの動物園の虎が新型コロナウイルスに感染している事が分かったと報道されました。その後、飼い猫に感染が見つかったとのレポートもあり、犬でも見つかったとかで、ペットのオーナーの中には不安を持っておられる方も多いと思います。新型コロナウイルスによく似ているSARSは、コウモリから、chive という動物を(ジャコウネコというらしいのですが、猫ではないそうです。) 介して人間に移ったという話を聞いた事がありますが、この動物は食材だそうなので、ペットとは違います。

中国からの最新の報告によると、イタチ、猫では、SARS-CoV-2 の感染を実験的に起こすことが可能で、犬には感染しにくく、鶏、豚、アヒルには感染が認められなかったと言う事です(Shi 他、Science 4/8/2020)。更に、感染のある猫の入ったケージの隣に別の猫を入れたケージを置いたところ、ウイルスがうつった事から、猫の間では、空気感染が起きた事も確認されています。こう書くと結構怖そうですが、CDCは、ペットから人間に感染したと考えられる例はないので、リスクは極めて低いとしています。ただし、Social Distancing をペットにも徹底するようにとの事で、具体的には、犬であれば、家族以外の人間、あるいは他の犬とは接触させないように、ですから、Dog Run とかは避けるべきだと書いてあります。セントラルパークで、犬が何匹も集まって遊んでいるのを見ますが、本当は勧められない事のようです。猫も、家の外には出さず、家族以外の人には近づけないようにするべきだとのことです。

もっと詳しいのは、American Veterinary Medicine Association (アメリカ獣医学会)のWebsiteで、例えば、犬の毛から感染が起きる可能性があるのかどうかについても書いてあります。外から帰ってきたら、犬を洗ったりする必要があるかどうかですね。

https://www.avma.org/resources-tools/animal-health-and-welfare/covid-19/covid-19-faqs-pet-owners

まとめますと、基本的にはこのウイルスの感染は人から人で、確かに金属、プラスチックののようなNon-porous な表面では(孔が空いていないというか、透過性が悪いという意味でしょうか)、数日間生存したというデータはあるのですが、そこから感染が起きるかどうかは不明な事、まして犬の毛、引き綱等のporous な表面では、生存期間は短く、感染源としては考えにくいとの事です。